妻の昇華を通して悟ったこと 酒井達夫(1800双)

わたしの最大の失敗

 まるで巨大な台風に、のみ込まれたような混乱にあったわが家も、今は何事もなかったかのように普通の生活の中にあります。ただ違うのは、妻がこの地上にいないことだけです。
 妻が倒れて最初に思ったことは、「これは自分の信仰生活の中で、最大の失敗であった。」ということでした。

 「あす死ぬか、きょう死ぬか分からないのです。」というみ言は、何度も聞き、何百回も訓読していたにもかかわらず、自分のこととしてまったく考えていなかったからです。
 妻の父親も脳出血で亡くなり、妻も高血圧であったため、妻から「わたしのほうが、あなたより先に昇華するからね。」と言われていたのです。でも、そのことを本気で考えていませんでした。

 妻の昇華後、わたしも子供たちも、妻(母親)がいつも一緒にいることを感じています。時々、夢に現れることもあります。
 しかし、実際の生活は大変です。まず経済面で厳しくなりました。男性のわたしが大変だと思うのですから、夫が先に昇華した家庭は、もっと大変だと思います。

 妻が昇華したことでいちばんつらいことは、話し相手がいないことです。周囲の人も、どのように話しかけていいのか分からないためか、遠慮するので孤独になりがちです。
 どちらかが先に昇華するのは、だれもが通過する道ですから、昇華者家庭に対して昇華を特別なことと思わず、むしろ積極的に交流してほしいと願っています。

「いつも一緒、  ずっと一緒」を実感

 話し相手を失ったわたしは、霊界の妻がわたしと共にいるとイメージして、いつも語りかけるようにしました。
 真のお父様のみ言や大母様のメッセージには、「統一教会では霊界にいる妻(夫)と地上にいる夫(妻)が会話しながら生活することができ、霊界の絶対善霊が地上に降りてきて協助する。」と語られています。

 妻がいつもわたしと一緒にいることをイメージできるように、妻の写真を部屋のあちこちに張り出しました。また、妻の写真を手帳と財布に入れ、いつも持ち歩くようにしたり、携帯電話の画面にも妻の写真を取り込んでいます。

 外的にでも、このようにすることで、妻のことを考えると、すぐに妻の笑顔がイメージできるようになってきました。  今では、わたしが「ママ」と呼びかけると、笑顔で「なに?」と微笑んでくれる妻を強く感じることができます。

 こうして、子供のこと、仕事、氏族復帰、信仰のことなどを一日じゅう妻と語り合っています。
 「いつも一緒 ずっと一緒」を書いている時のことです。初めは、わたしの立場から書いていたのですが、途中でつらくなって書けなくなってしまいました。

 渋谷駅前の交差点を歩いている時、霊界にいる妻から「わたしのことを書いているのだから、わたしの立場になって書いたほうがいいのでは?」という思いを感じたのです。
 それで、妻の立場で書き始めたのが、『ファミリー』で連載した「いつも 一緒ずっと一緒」です。

 書きながら、妻の考えや思いを強く感じ、自分が書いたというより、霊界から書かされたというのが実感です。
 妻が昇華して2年間は、自分が立ち直ることで精いっぱいでした。  しかし、昨年(2005年)、真の父母様の世界巡回が始まると、妻も真の父母様と共に世界を巡回していると確信するようになりました。

 統一教会員として地上で生きていた人間が、霊界に行ってこの大切な時代に、どこかでひっそりとしているでしょうか?  興進様に率いられ、イエス様やお釈迦様や孔子や聖人義人たちと共に、張り切ってみ旨のために最前線で働いているに違いありません。妻から、その喜びと波動が伝わってくるのです。
 以前は、霊界と地上界には越え難い壁があり、よほどのことがない限り、霊界から地上にコンタクトすることは難しく、恨みや怨念を抱えた霊の働きしかないような時代だったと思います。

 しかし、今は神様の願いが地上に果たされる時となり、霊界の壁が壊されて、天使と共に先祖や宗教界などの多くの霊が、地上に降りて働くようになっています。
 妻は、まったく霊的ではありませんでしたが、わたしをはじめ子供たちや親戚、友人の所に、妻が現れて働くことができるのも、このような時代的な恩恵があるからでしょう。

 わたしは、妻の昇華を通して、人間の魂は消えたり、どこかに行ったりするのではなく、親なる神様の元に喜んで帰っていくということを実感することができました。
 帰歓式で思わず涙ぐみそうになった時、「パパ、わたしは今喜んでいるんだから、悲しまないで喜んで送ってちょうだい。これから行こうとしている所が、あまりにも素晴らしくて、本当に驚いているの。」という、妻からの強い思いを受けて驚きました。

 こうした妻の思いは、それからいろいろな場面で感じられるようになってきました。
 それだけでなく、霊界と地上とで互いに語り合いながら、まるで生きている時と同じような交流ができることも体験しました。

 天国とは、地上であれ霊界であれ、夫婦が神様の愛を中心にして永遠に愛し合っていく所であると感じられるようになったのです。
 死は、もはや怖いものではなくなり、わたしにとってはむしろ希望であり、安らぎであり、喜びですらあるようになりました。

 イエス様の弟子たちも、イエス様の十字架以降、同じように感じたのではないでしょうか。
 相手が目の前にいないだけに、生きていた時よりも相手のことをよく考え、思っています。そして、思いで交流するだけでなく、早く本当に会いたいと思っているのです。


 地上の夫婦生活では、相手のことを忘れたりすることもありましたが、相手が目の前からいなくなると、恋しい思いが強まるのです。自分が霊界に行った時は、きっと熱々の夫婦関係を築くことができることと楽しみにしています。

 妻が昇華して困ったこと

 妻が昇華して、いちばん最初に困ったのが、昇華式に使う遺影に適当なものがないということでした。パスポートや免許証以外に顔写真を撮影している人は、あまりいないと思います。
 この教訓から、わが家では、一年に一回、家族一人ひとりの昇華式用の顔写真を撮影することにしました。
 最後のお別れくらい、自分が気に入った最高の笑顔であいさつしようと思うからです。それから、親や親戚の葬儀用の写真も撮影してあげるようにしました。

 わたしの父や妻の母は、「年を取って顔がしわだらけだから、この顔ではもう嫌だ。」と断られましたが、叔母からはとても喜ばれました。教会の親しい人からも喜ばれています。
 次に困ったのが、妻の銀行カードの暗証番号や、生活の諸経費の支払いでした。

 妻の場合、くも膜下出血で意識不明となり、そのまま昇華したのですから、家計のことが まったく分からなかったのです。
 次に、妻の昇華を伝えるべき人について困りました。妻の親戚や年賀状が来ている範囲は知らせたのですが、それ以外の人に伝えることができなかったのです。
 妻から、「わたしのほうが、先に昇華するからね。」と時々言われていましたが、その時は「なんて嫌なことを言うんだ。」と思った程度です。

 しかし、病気だけでなく交通事故や突然死もあるわけですから、夫婦はがんの告知はどうすべきであるとか、昇華した場合の具体的対処方法についても深く話し合い、情報交換しておく必要があります。

 貴重な体験を生かして

 真のお父様は今年一月、ハワイで配偶者が昇華した男性に、「昇華した相手からの協助をいつも祈るように。決して忘れてはいけない。そしてよく奥さんと交流しないといけない。」
と語られました。
 霊界と地上界一体化の摂理の中で、昇華者のいる家庭の役割は大きいと思います。
 愛する家族の昇華に直面した家庭は、旧約聖書のヨブと同じように、神様への疑問や不信を抱きやすくなります。

 しかし、その思いを時間をかけながらも乗り越えた時、生命の重さや生きることの大切さ、人への思いやりを強く持つようになります。
 わたしは、このような貴重な体験を、これからの人生に生かしていきたいと思っています 。

                    ファミリー2006年8月号